日本に10年前のシンガポールを感じた(136)
- K
- 2023年4月18日
- 読了時間: 6分
2週間ほどの日本滞在にて、金沢や京都を訪れる機会があった。
金沢や京都といえば、
日本を訪れる外国人にも非常に人気であり、
観光地を歩けばもうそこは外国だ。
そこで感じたことを書いておこうと思う。
結論から言うと、
日本は10年前のシンガポールに似た格差が生まれている、ということだ。
シンガポールに移住してきたばかりの2010年。
当時のシンガポールはとにかくタクシーが安かった。
体感でいうと3-4ドル程度であちこち動けたし、
セントラルエリアから空港まで行っても15-20ドル程度だった。
当時の為替は65円程度。
4ドルで260円程度、6ドルでも390円。
10ドルかかっても650円だ。
自分の当時の移動距離からして10ドルかかることなど非常に稀だったので、
電車やバスの乗り方を覚えることはその後なかったほど、
タクシーに乗っていた。
またシンガポール人の食文化を支えているのがホーカーセンターという屋台。
シンガポール中あちこちにあり、
共働きすることが普通なシンガポール人の朝ごはん、昼ごはん、
または夜ごはんとして、大いに利用されている。
そしてこのホーカーがまた安かった。
自炊するのがバカバカしくなるほど安い。
最近でこそホーカーも値上がりしていて、なんでも4ドル以上、
品数やものによっては6ドル、8ドルとするようになってしまったが、
10年前は1ドル台からもりもりの麺やナシレマが食べれたし、
3ドル台で大体なんでも食べれたものだ。
お手伝いさんを雇うのも非常に安かった。
住み込みで休みは日曜日のみ、という条件で1ヶ月400ドルだった。
1ヶ月たった26,000円で、掃除洗濯食器洗い、買い物や簡単な料理、
そしてまだ赤ん坊だった子供の世話までしてくれたものだ。
いまでは、未経験のお手伝いさんでも600ドルでは見つからないだろう。
800ドル、1000ドル、中には1200ドルで雇っているという人もいる。
もちろんシンガポール人の給料も10年前は今とは比べ物にならないくらい低かった。
2022年の国立大の卒業生の初任給は平均が月4,808ドル(いまの為替で48万円)で、
前年から13%上昇していたというニュースがあったが、
毎年給料が上がっていくのはここでは普通のことだ。
このように、10年前のシンガポールは、
シンガポール人の給料も安く、
インドネシアやバングラデシュからの労働者の給料は更に安く、
そういう人々の労働のおかげで、
外国人から見ると、
ホーカー飯は安すぎるし、
タクシーも安すぎるし、
お手伝いさんも安すぎたのだ。
家賃だけは当時からある程度高かったけど。
一方で、
移民国家であるシンガポールは、
発展途上国からの労働者しかいないわけではもちろんなくて、
先進国から駐在で働きに来ている人もたくさんいたし、
完全に移住している人もたくさんいた。
もちろん、観光客も非常に多い。
そうなると、食で言えば、
それに対応するレストランも当然たくさん出てくる。
要は、シンガポールには、
200-300円で食べられるホーカー飯
100ドル以下ではおさまらない日本人経営の焼き鳥
が共存していた。
当時から、中間があったらいいのになぁと感じていたものだ。
安く抑えようと思えばホーカーで極端に安く済ますことは出来る。
でも和食やイタリアンや中華など、
美味しいなと思うものを食べようと思うと、当時の日本と比べて遥かに高かった。
(当然いまはもっと高い)。
そういうレストランでは、
外国人か富裕層のシンガポール人が集う。
一般的なシンガポール人はホーカーで食べる。
それが10年以上前のシンガポールだ。
その感覚を、
今回の金沢滞在や京都滞在で、思い出してしまった。
大阪も同じだ。
街で売っているお弁当は、
「こういうのでいいんだよ」系の、
十分に種類豊富なおかずにボリューム。
それが、298円とかで売っている。
最初に見かけたときは二度見してしまった。
いくらなんでも安すぎないか。
高校生の時の校内のお弁当屋さんでもこれ以上はしたと思う。
そしてそのお弁当を、
働くサラリーマンが購入して去っていく。
弁当だけじゃなくて、普通にレストラン入っても激安だ。
安いのに美味い。
居酒屋なんてレベルが高すぎるのに1,300円で2時間飲み放題だと。。。
生ビールも焼酎も飲み放題だと。。。
シンガポールでは、オーチャードのその辺のお店で、
1,300円ではビール1pintすら注文できない。
一方で、外国人観光客向けのお店は、相当に高い。
例えば京都で先斗町を歩いてると、
山ほどある飲食店のなかでも、
スタッフが英語を流暢に話す日本人になり、完全外国人向けになっている店がある。
そういうお店に入ってみると、
単なる水炊きやBBQやすき焼きうどんが、シンガポール並に高い。
そして別にものすごく美味しい訳ではない。もちろん不味くもない。
お客さんは自分以外全員外国人だった。
しかし同じ並びのお店でも英語がからっきし駄目なスタッフしかいないお店もあり、
そういうお店は外国人は全然入っていない。
そしてそういうお店は安い日本式の値段設定だ。
金沢の近江町市場も、京都の錦市場も、
外国人まみれだ。
もうこれらの市場は外国人を相手にする市場になっているので、
値段は正直、お得ではない。
もちろんシンガポールに住んでいる我々からすると、安くて美味しくて、
幸せ満開なのだが、
日本に住んでいたら、ここでお得さを感じることは絶対にないだろう。
そう、日本は高いお店もかなり増えてるのだ。
でも安い店はもっと安くなってるのだ。
300円以下で1食食べられる一方で、
外国人向けのお店は高すぎて入れない。
この状況は、10年前のシンガポールと同じじゃないか。
シンガポールはそこから給料は上がり続けたが、
日本は。。
いや、なんなら、10年前のミャンマーでも同じような光景をみた。
10年前のインドネシアでも同じような光景をみた。
日給が300円とか500円とかの街に、
突然スターバックスが出来る。
500円のコーヒーを売っている。
そんな状況だ。
一気に民主化したミャンマーでは、
急に大きなショッピングモールが出来た。
日給300円の人々が訪れるが、
1個300円のタイ焼きや、600円のクレープが売っている。
いままで木を編んで作った小屋に住んでいたのに、
急にエスカレーターのあるモールが出来るのだから、
もう何が起きているのかわからなかったはずだ。
少し話が飛んでしまったが、
要はそういう何かを日本の観光地で感じてしまった。
シンガポールに住んでいると、こっちに住む外国人の友だちから、
日本でおすすめの場所を教えてくれ、等とよく言われる。
彼らは富裕層だし、桁の外れた富裕層でもある。
お金が減らない人々もいる。
そういう人は、金額どうこうではない。
気持ちよいおもてなしを受け、
素晴らしい体験に、いくらでも喜んで払うのだ。
そういう外国人富裕層の日本でのアテンドをやって、
いまや大成功している台湾人の友だちがいる。
出会った頃はお金のない20代の若者だったが、
そこから10年。
日本に訪れる中国人富裕層の日本での滞在、食事、遊び、買い物、
すべてをアテンドするスペシャリストになった。
日本語、英語、中国語を流暢に話す彼はひっぱりダコとなり、
いまや世界的に有名なセレブのアテンドも彼がこなしている。
一晩で100万円でも払う人々が彼の周りにたくさんいて、
彼はその価値があるレストランやクラブに連れて行く。
298円のお弁当や恐ろしいくらい安い業務用スーパーで食材を購入する人。
そういう人用のお店。
一泊100万円の宿に泊まり、食事や体験にいくらでも気持ちよく払う人。
そういう人用のお店。
この差がより広がるであろうことしか想像できない。
